COLUMN

神田神保町と「本」

MM

MM(ライター)

神田神保町。一般的には単に神保町と言った方が馴染み深いかもしれないが、この地名を聞いて真っ先に思い浮かぶのはなんといっても「本」だろう。神保町は古くから本の町として栄えてきた。その歴史については割愛させてもらうが、やはりこの町を歩いていると多くの書店の姿が見受けられる。古書店から新刊書店にいたるまで、数で言えば100はくだらない。1つの町でこれほどの数の書店があるのは世界的にも他に類を見ないだろう。
しかし、今は紛うことなきインターネット社会。本の電子化の影響により、全国各地でシャッターを下ろす書店が後を絶たず、その波はこの神保町にも間違いなく押し寄せている。紙の匂いは中華スープやスパイスあるいはコーヒーの匂いに代わり、通りに軒を連ねる建物は会社員や学生たちが本の代わりにスマホをいじりながら腹を満たす場に代わりつつある。
知っての通り、今や新聞や小説、図鑑や漫画など様々な本が電子書籍として普及している。当初は「本はやはり紙に限る」と主張し、紙媒体を求める声も多かったが、それも段々と減少傾向にある。スペースを取らない、探す手間が少ない、手軽に購入できるなど、多大なメリットを考えればそれも仕方がないことなのかもしれない。本特有の紙の匂いや読了感、背表紙を並べた時のデザイン性などを脇に置き、ただ文字を読むという点においては電子書籍の方が優れていると言わざるを得ない。その上、資源を使わないため、環境にも優しいというのだから、普及が進むのは当然と言えるだろう。
ただ、である。電子書籍の方が優れているのは分かっていても、それでも紙が完全に廃れることはありえないと断言することができる。かくいう私も完全に紙派だ。書店で一冊の本を買って読むまでの高揚感や、良い本に出会えた時のいつまでも続く充足感は格別なものがある。だが残念ながら、これらをメリットとしてはっきりと説明することは難しい。分からない人には一生分からない。「理屈ではない」と答えるのが精一杯なのだ。
私が神保町のオフィスで働き始めたのはまったくの偶然であるが、この町を歩いていると、書店の看板が霞んできているように見えて少しだけ寂しい。願わくば、少しでも多くの書店が残り、あの紙の匂いを町に振りまいてほしいものだ。

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